発作。また信念を打ち棄ててしまった。否、するすると手から離れてしまった。愚かな奴隷。表現に凝ったところで、結局は何が良いか分からなくなる。なんら生産的ではない。生理的な現象や、呼吸があるだけである。誰が自殺の決断に如くはなし、と呟いている。人間らしい行為はなにひとつ出来ない。ぎょろぎょろ、ぎょろぎょろ、と人の目に欅の根に疑念を投じて、ただ、苦痛の終わりを待ち侘びるのである。
「窓の向こうに木はありませんから、葉が落ちる心配は無用なのです。ただあの広大な、感情豊かな空と会話をするだけで時間が経ってくれます。或る日、あなたは今にも出かかった、夢という言葉を押し殺しましたね。もしかしたらあなたは勘違いされていて、わたしの将来に同情してくれたのでしょうが、実はとくに悩ましいものでもありません。むしろ、あなたのような将来の成功を祈り続ける者こそ、なんとも無残な面容で余生を生きぬく他ないのです。つまり、救われていないのはあなたの方だとわたしは心得ます」シンプルな駅。見渡せば線路、見渡せばホーム。人がぽつぽつ。がらんと空いた屋根のひきずる、陰鬱な影。鳩が飛んできた。わたしには見えない餌をついばむ。ひとつひとつを、午後の記憶の固着した印象が包んでいる。だれもが、物質的な立場を醸し出している。
其れも此れも、電車のくるまでの景色。
さようなら、と訊いた。
「ベッドに横たわる人間が優れているなんて、そんな話はどこにあるものか、とお考えなんでしょうか。あなたは、はやく理想を破棄された方がよろしいかと思います。それだからたびたび、捕虜の身のような絶望の表情をとる以外に術がないのです。あなたは、窓の外に視線を向けられた方がいいでしょう。あしたは晴れになるかと思いますから」
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