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2020/03/29 11:05 |
無タイトル
室内の奥へ奥へと差し込む太陽光線。冷たい窓と部屋のあいだに佇む、温かいやさしさに触れ得る時分、絨毯の凹凸のひとつひとつに影が落ちて、いよいよわたしの想念は幼少のころを好んで離れようとしなくなって居た。温かい眼に見守られながら、わたしは外を凝視めていた。景色の一つ一つの移ろいを、それは唯々機微であって、外の子どもたちが好むようなデパートの屋上の活気とは全く相異なるものだったのだけれども、何かに憑かれたかのように視線を定置して、辺りが暗くなるまで見届けていたのだった。まだ遠くまで見える両目で葉の褐色がかった色合いを、その落ちていく様、または、冬の鳥がたのしそうして居るようすを、一日一日記憶の底に落とす所までやっていた。夕方になると母親に淹れて貰ったコーヒーをテーブルですすって、その場所からまたベランダ越しの景色を凝視めた。倫理的に正でも負でもない。向上心の観念がはく奪された、ただ温かい、惰性の世界に根を下ろしていた、否。幼き少年の知らず知らずの間に暗闇は辺りを包み込んでいたのである。夕暮れではない、何か不気味で、回帰することを赦されない大きな傾向が、そこに横たわっていた。
彼は、幼きままに育った。その証拠に、またこの時期になって、まるで毒気のないその温かさを、無邪気に手に取った。頭では分かっているが、もはや心は容易にはそこを揺り動かない、固着した塊と化していた。「心安らぐ場所だ」、と同時に無論、それは非常に、厄介な場所ともとれる運命を背負っていたのである。
ああ、まわりの人間の顔が、みんな同じに見える。恥ずかしい病気だ――、いつからこうであるのか。誰に問いかけるでもなく、むかし熱中した音楽を、看板のくたびれた店で探した。あの時捨てて何年も気がかりであったCDを、また買い戻した。たちまち心は満たされて、そのあとに歩いた道は、日が暮れるまで過ごしたあの故郷の山へと引き戻してくれるような期待にさえ感覚を打ち付けるのだった。部屋に戻ったとき、外は真っ暗になっていた。やがて盲信は無言で何に構うことなく崩れて、あらゆるものが徒労感に立ち替わり、彼は苦しめられた。無様な顔をして、また明日の朝に淡い期待を寄せる。嘲笑が耳の中を反響した。世間は明るい徒党を組み始めていた。そんなことに胸を重くし、ただ彼は、記憶がまた甦るのを薄弱の思いで待つのであった。
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2009/11/06 23:43 | Comments(0) | TrackBack(0) | 未選択

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